わたしと岩﨑大昇くんのはなし

 

 


大昇くんはきっと天使だ。

まちがえて人間界に生まれてしまったみたいだけど、彼はきっと天使だから、この世界は生きづらいと思う。大昇くんが健やかに生きるには、あまりにも醜いものが多い。私もその中のひとつだ。

 


私が大昇くんに初めて出会ったとき、大昇くんはバディだった。去年の秋、新国立劇場で彼はバディとしてキラキラと笑顔を輝かせていた。

 

それまでSixTONES森本慎太郎くんと少年忍者の元木湧くんを応援していた私は感染症の影響ですっかりなくなってしまった「現場」(コンサートや舞台など推しと会える機会のこと)に飢えていた。そんなとき大昇くん主演のミュージカルが決まる。湧くんと同じグループの織山尚大くんが出演するとわかり、なんとなくジャニーズJr.情報局のひとつの名義からチケットを申し込んだ。当落もすっかり忘れていた(のだが、ツイッターを見て気づくことができた。少年忍者 Informationさんありがとう)。そのチケットが当たり、その後またなんとなく申し込んだホームページ先行のチケットも当たったため、私は『ELF The Musical』に2度足を運ぶことになった。大昇くんのことも織山くんのこともよく知らなかったが、久しぶりに生の舞台が見られるというだけで気持ちは高揚していた。その日は誰に会うわけでもないのにお気に入りの服を着たし、いつもより丁寧にお化粧をした。

 

 

 


公演が終わると、岩﨑大昇くんという人のことが気になっていた。

バディは純粋で天真爛漫で可愛らしくて素直で子どもらしかったが、岩﨑大昇くんはどんな人なんだろう?そもそも彼は何歳で、いつからジャニーズ事務所に入って活動をしているのだろうか?

バディを演じる岩﨑大昇くんは2度もこの目で見ることができたが、私はジャニーズJr./美 少年の岩﨑大昇くんについては何も知らなかった。YouTubeのジャニーズJr.チャンネルの美 少年の動画を見たり、(慎太郎くん主演のスピンオフドラマを放送していることからFODプレミアムに入っていたため)過去に放送された美 少年のRIDE ON TIMEを見たりしたが、彼のことは全くわからなかった。なにか言葉で定義づけることができないような、不思議な人だった。

 


それでもRIDE ON TIMEで流れた8・8祭りの「君にこの歌を」を歌う大昇くんは私の脳裏に焼き付いて、ずっと頭から離れなかった。あれほど綺麗に涙が頬を伝うのを、私は見たことがなかった。

 

 


そうしているうちに木々の葉は落ち、風は冷たくなり、ドリームボーイズの季節になる。カード枠で12月公演が1公演当たった私は、また浮き足立った気持ちでその日を迎える。

 


愕然とした。今まで見たことのない岩﨑大昇くんがそこにいた。バディでもなければジャニーズJr./美 少年の岩﨑大昇でもない、「タイショウ」がいたのだ。声の出し方から立ち姿からすべてが私にとっては初めて見る大昇くんで、私はますます夢中になってしまった。

 

 

それから私は定価以上の値段でチケットを買うようになる。

 

 

大昇くんは毎回違う演技や歌、ダンスを見せてくれた。髪型も日によって違った。

「タイショウ」は神宮寺勇太くん演じる天才ボクサー、チャンプのジムに通って日々ボクシングを練習している若者で、チャンプのことをとても慕い尊敬している。その尊敬の念やチャンプを思う気持ちの大きさは大昇くんの演技のいたるところに表れている。それを見つけるたびに私は恐ろしくなって、目が離せなくなって、彼のことをもっと知りたい、彼の演技をもっと見たいと思った。

 

 

定価以上の値段でチケットの売買をする人たちのことは、今でも気持ち悪いと思う。汚い。私もその中に入ってしまったのだと思うと自分への嫌悪感で倒れそうになる。

 

アイドルとファンの関係なんて曖昧だ。どれほどお金をかけても不特定多数の中の一人で、どれほどお金をかけても好きなアイドルと同じ空間にいられる時間はたったの2時間。2時間経てば魔法は解けて、すべて元どおり。私たちは普通の生活に戻る。

 

私は一生大昇くんと会話をすることはないし、大昇くんを見るためにかけたお金が何か形として残ることもない。

 

 

 

 

それでも私は今日もドリームボーイズのチケットを探している。